インプラント治療には年齢制限がないことから、近年では高齢者のインプラント治療も多くなっています。ただし、インプラント体を顎の骨に埋入する外科手術が必要なインプラント治療は、高齢者の場合リスクを伴う可能性も考えられることから、安全におこなうためには注意が必要です。
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高齢者のインプラント治療を安全におこなうための注意点
全身疾患をなどの持病があるかどうか
インプラント治療は外科手術が必要になるため、手術が悪影響を及ぼすような疾患がある場合は治療ができない場合があります。中でも全身疾患のある方は注意が必要です。糖尿病の方は手術の際に血が止まりにくかったり、傷口の治癒が遅くなってしまい細菌感染を引き起こすリスクが高くなります。また、高血圧の方は術時に使用する局所麻酔薬によっては血圧が上昇する成分を含むものもあるため、麻酔薬に制限があります。骨粗鬆症の方は骨密度が薄くなっていることから、インプラント体と骨の初期固定が得られない可能性があります。心疾患や肝疾患、腎疾患がある方も手術によって症状が悪化することも考えられます。これらの全身疾患がある方は、事前にインプラント治療ができるかどうかをかかりつけの主治医に判断してもらうことが重要です。場合によっては歯科医師と主治医が連携しながら治療をおこなうこともあります。
現在服用している薬がある
過去に脳梗塞や動脈硬化などを起こしてしまい、現在も抗凝固剤などを継続的に服薬している方は、血が止まりにくい可能性があるため注意が必要です。また、骨を強くする「ビスフォスフォネート製剤」を服用している場合は、手術後に細菌感染を起こしてしまうことで傷口の治癒が遅れるだけでなく、顎の骨が壊死してしまう「顎骨壊死」を引き起こす危険性もあります。インプラント手術によってトラブルを引き起こしたり、症状が悪化する可能性のある薬剤を服薬・投与している方は、インプラント治療ができない場合が多いです。高齢者の場合、様々な疾患を抱えていることも考えられるため、現在服用している薬がある場合は、手術で使用する薬との飲み合わせが悪くないかなどを確認する必要があるので、必ずお薬手帳を持参して歯科医師に見せてください。
口腔環境の状態が良好である
インプラントは顎の骨量が十分あるだけでなく、口腔環境が清潔な状態でなければ、インプラント治療をおこなっても良好な予後を得ることは難しいです。口腔内が清潔でなければインプラントの歯周病である「インプラント周囲炎」のリスクが高くなってしまいます。高齢者の場合、加齢に伴い口腔環境を清潔に維持することが難しくなることも多いため、インプラント治療をおこなうためには、毎日の歯磨きなどのセルフケアだけでなく歯科医院での定期的な健診や歯のクリーニングが必要になります。
インプラント治療後の歯科医院での定期的なメンテナンスに通うことが難しい
インプラント治療は個人差がありますが、インプラント体と顎の骨とが強固に結合するため3ヶ月〜6ヶ月程度の治癒期間を必要とします。しかし、高齢になればなるほど結合に時間を要する傾向があります。さらに、インプラント治療が終了した後も定期的に歯科医院でメンテナンスをおこなうことが必要になります。そのため、治療中や治療後はご自身やご家族の協力のもと、歯科医院への通院が可能な場合でなければインプラント治療はおこなうことができません。
アレルギーがある
インプラント治療で使用する薬剤の中には、卵や大豆など食品由来の成分が含まれたものを使用する場合があります。そのため、アレルギーを持っている場合は、必ず事前に歯科医師へ伝えることが大切です。
手術に耐えるだけの十分な体力がある
インプラント治療は外科手術を必要とし、術後は腫れや痛みを伴うことが多いです。健康で体力のある方の場合は、抗生物質や痛み止めを服用することによって1週間程度で徐々に治まっていきます。しかし高齢者の場合、自然治癒力が遅くなっていることから、腫れや痛みが長引いてしまうこともあります。さらに、術後は普段通りの食事が摂れない期間もあり、栄養が偏ることも考えられるため、場合によっては免疫力が低下してしまい、傷の治りが遅くなったり細菌感染を引き起こすリスクが高くなってしまうこともあります。これらのことから、インプラント治療に耐えることができる十分な体力がないと判断された場合は、インプラント治療ができません。
まとめ
これまでに歯を失った場合の治療法として、高齢者の多くは「入れ歯」治療をおこなっています。しかし、インプラントは入れ歯と比べて、咀嚼力や口腔内の違和感、発音などの機能性だけでなく、審美性にも優れている治療法です。ただし、健康状態や生活習慣などによってはインプラント治療が難しい場合もあるため、治療前にはご自身の健康状態などについて、歯科医師にしっかりと伝えることが安全なインプラント治療に繋がるのです。